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神戸家庭裁判所 昭和52年(少)3605号 決定 1977年10月28日

少年 D・B(昭三四・七・一二生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してあるカッターナイフ一本(昭和五二年押第二九六号の一)。食事用フォーク一本(同号の一一)。ドライバー一本(同号の一三)。いもの製パイプ一本(同号の一五)を没取する。

理由

(非行事実)

当裁判所調査官○○○○作成の昭和五二年一〇月二七日付少年調査票記載の非行事実(検察官作成の同月六日付送致書記載の犯罪事実と同じ)のとおりであるから、これを引用する。

(適用法条)

刑法二三六条一項(強盗)

(処遇の理由)

一  本件は、家出徒遊中である昭和五二年八月二五日から同年九月一六日の間に、五回にわたつて、いずれも金銭に窮し、テレビで見たことのある人質事件などにヒントを得て、子供を人質にしてその場にいる母親から金員を強取しようと企て、いずれも日中子供と母親しかいない家に入り、拾つたり買い求めたりして持つていたいもの製パイプ・カッターナイフ・食事用フォーク・ドライバーを、子供につきつけるなどして母親を脅迫し、その反抗を抑圧して、同女らから現金九万五〇〇円および腕時計・スポーツシャツなど三点を強取したという事件であり、子供を傷つけるつもりはなく、抵抗されれば逃げるつもりであつたと少年は述べるけれども、危険かつ悪質な事案というべきで、新聞紙上子供人質強盗として報道され、世間の子を持つ母親らに強い不安を与えたものである。事案や少年の一八歳という年齢を考えれば、刑事処分相当ともいえるが、以下に述べるように、少年院送致が相当である。

二  少年は、これまで当庁に事件が係属したことはないが、中学二年の終りころから怠学が始まり、三年になつて次第に増し、終りころには殆ど登校しなくなつた。卒業後就職したが一か月位でやめ、その後転職を重ね(少年の述べるところでは一九回)、しかも長くて二か月位、短くて一〇日、五日位でやめたり、飯場を転々としたりし、その間家出・徒遊し、容易にやれる車上狙や店舗荒をしたことも少なからずあつた。少年が同一職場に落ちつけず、この数か月職につかないようになつたのは、人と話をするのを極端に嫌い、対話する場合も顔をあげず、小さな消え入るような声しか出さず、自らは語ることも行動することもしないという内向的・受働的で無気力・未熟な性格であるため、短期間に仕事に行きづまり仕事を投げ出してしまうためと考えられ、その傾向は進みつつあると考えられる。そして、これはまた少年が生れ育つて来た祖母、父、母、兄らによつて構成される家庭内に激しい緊張、葛藤があつたことに起因するものと考えられる。本件も、仕事をしないで家にいると、父、兄から働くように責められ、かといつて働く自信も意欲もなく、その葛藤状態で家を出て徒遊するうち、金銭に窮し、次々敢行したものである。

三  このように、性格、生活態度、行動や家庭に数多く問題を持つた少年であり、刑事処分に対し責任を追及し自覚を促す必要性は否定しえないものの、それよりも、少年を少年院に収容し、鑑別結果通知書にも記載されているように、当分の間少年を複雑で圧力の強い対人場面に置かないようにすると共に、ある程度幼児的甘えや依存感情を出せるような場面に置いて、感情の交流をはかり、また日常生活を規則正しく送らせ、それにより少年に社会性を高めさせ、社会適応力をつけさせ、再非行させないようにするのが肝要と考える(なお、審判において、少年は言葉少なにまた小さな声ではあるが、正確に応答し、生育などについて尋ねられて、一筋の涙を流すなど、知的にはそれほど問題はなく、感情の交流も可能である。)

そのためには、少年を中等少年院ことに特殊教育課程のある宮川医療少年院に収容し、相当長期に及ぶ矯正教育を施すのが相当であると考える。

以上のとおりであり、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年法二四条の二第一項二号二項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 田中明生)

少年D・Bにかかる昭和五二年少第三六〇五号強盗保護事件の犯罪事実(昭和五二年一〇月六日付少年事件送致書記載)

被疑者は、幼児を人質に家人から金員を強取しようと企て

第一 昭和五二年八月二五日午後二時四五分ころ、神戸市東灘区○○町○○×××番地、○○重工業団地××棟××号室A子(当二九年)方において、同女に対し同女の二女B子(当五年)の襟首を左手でつかみ、右手に長さ一六センチメートルのいもの製パイプを持つて右B子の頭上に振りあげながら「子供の頭を割られたくなかつたら金を出せ、おれは昨日少年院から出てきたんや」等と申し向けて脅迫し、A子の反抗を抑圧して同女所有の現金一万一、〇〇〇円及び腕時計一個を強取し

第二 同月二九日午後一時三〇分ころ、大阪市東淀川区○○○町×××番地市営住宅第×団地×棟×××号室C子(当三二年)方において、同女に対し、同女の長女D子(当六年)の襟首を左手でつかみ、右手にカッターナイフを持つて、同女の顔につきつけながら「金を出せ。出さなかつたらこの子の顔を切るぞ」などと申し向けて脅迫し、右C子の反抗を抑圧して、同女所有の現金一万円を強取し

第三 同年九月二日午後四時五〇分ころ、京都市左京区○○○○○町××番地E子(当三四年)方において、同女に対し、同女の三男G(当四年)の顔にカッターナイフをつきつけながら「おれは新聞に出ているように警察に追われている。金を出せ」と申し向けて同女を脅迫し、同女所有の現金四五、〇〇〇円、スポーツシャツ等衣類二点(時価二、五〇〇円相当)を強取し、

第四 同月一〇日午後一時五〇分ころ、神戸市灘区○○町×丁目×番×号市営○○住宅×××号室、H子(当三二年)方において、同女に対し、近隣のI子(当五年)の腕を左手でつかみ、右手に持つた食事用フォークを同女の目につきつけながら「騒ぐとこの子の目をつぶすぞ。金を出せ。」と申し向けて右H子を脅迫し、右H子の反抗を抑圧して同女所有の現金二一、五〇〇円を強取し

第五 同月一六日午後三時一〇分ころ、兵庫県伊丹市○町字○○○×××番地の×J子(当三三年)方において、同女に対し、近隣のK(当九年)の襟首を左手でつかみ、右手にドライバーを持つて同人の頸部につきつけながら「金を出せ、おれのこと新聞で知つているだろう。」と申し向けて脅迫し、同女の反抗を抑圧して同女所有の現金三、〇〇〇円を強取し

たものである。

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